「あぁ?うん、そう。結構おそかったね…3時くらいまでやったかな?」現状を理解した梓が返事をした。

「うん、途中で休憩っとか言って梓が電話掛け直してくれたり…」

「そ、そうなんすか?」

「むぅ」

葛城と赤木は納得してしまった。別に二人が3年生で、大学受験をひかえて勉強中。ということではなく、二人の長電話に対してである。

徹夜覚悟の長時間、週に1度は行われるこの凶行は彼女らを知る者の間では有名な話である。

まったく異なるカラーを持つ二人が無二の親友になる、というのはよくある話である。この二人の仲の良さはそのジンクスを裏付けている。

梓がこの高校に編入してきたのが去年の4月。幼少の頃から剣士になることを夢見ていた梓は、早速剣道部に入部、そこで千鶴と出会う訳である。入部初日、稽古相手に千鶴を呼んだ先輩部員を名字が「柏木」であったため、謝って梓が1分でノシてしまった事から、二人の関係が始まったのである。

 

府立南清水高等学校前 AM8:30

始業に間に合う最後のバスが去っていった。降車と同時に駆け出す生徒もいるが、ほとんどの生徒はあわてる様子がない。

南清水高校の制服は、最近の主流にもれずブレザーである。この時期になると、男女ともには開襟シャツに衣替えし、通学路は白々としている。逆に冬になると濃紺のブレザーを着用するので黒々とする。こんな通学風景にも季節感を感じ取ることができるのであるが、その白い風景のなかに黒い詰め襟がまじっていた。

その青年が通り過ぎると同時に周りの生徒は一瞬注目してからヒソヒソと憶測を展開し始める。

「どこの制服?」

「転校生か?!」

「結構、イイやん」

サラサラヘアをこざっぱりとまとめ、それなりに整った顔立ちの彼は、ともすれば「さわやか好青年」というキャラクターが似合いそうである。しかし周囲の生徒達が小声で噂話をするのには訳があった。

 

ベーカリーショップ「ナカガワ」 AM8:30

「さ、いこ千鶴。こんなやつらの相手してたらあかん」

二人は予想が外れたせいか、梓のトゲのある言葉に返す言葉もない。

ズルズルと引きずられる千鶴が振り返って。

「ふつう、何十人も相手できるわけあらへんよ」

そう、笑顔で言うと足早に去っていった。

一瞬無言で見送る二人。

「ふぅむ」

一緒にため息をついた二人は意見交換を始めた。

「やっぱムリかぁ」

「ということは、やっぱり内部抗争か…いや、新勢力の台頭とも考えられるなぁ」

早速、赤木が他の可能性を模索し始めた。

「オイ!あれ!」

しばらく、推論に付き合っていた葛城が赤木の思考にストップをかける。