しかしこのクラスの問題児4人にはまだ馴染めていない。表面上問題を起こさないので接する機会が少ないせいか、それとも自分がもう歳なのか、いっこうになつこうとしない。「もう一度話してみるか」と腰を上げようとした時、担任の話が終わった。
仕方なく腰を落とす井上教師。
「甲斐 信正です。よろしく」
ゆっくりと会釈する。
今まで茶髪4人組を無視していた甲斐が頭を上げる一瞬、視線を金髪リーダーに合わせた。
金髪リーダーの背中に冷たいものが通る。
陰をおとして表情は見えなかったがその眼は、笑っていた。敵意ある加虐的な笑み。
金髪リーダーは一瞬気圧されながらもそれを表情に出さず、決心した。
正面玄関 PM3:30
公立高校には珍しく、2階吹き抜け構造になっている正面玄関は、校舎全体が空間的余裕を持たせた造りになっているためである。今は帰宅部がひととおり出払った後の静けさと、その広さゆえ、この時期でもひんやりとした空気がただよっている。
その中央の展示台、分厚いガラスに囲まれて、鎧甲が一体収まっている。
漆ははがれ、赤錆におおわれ、表面の装飾はことごとくなくなっているが、よほど保存状態がよかったのだろう、古めかしさが生み出す脆弱感は無く、むしろ威圧感すら感じる。
こいつを見るやつらはなんと思うのだろう。…
物としての価値か、その構造か、
どれだけの人間が人殺しの道具だと考えるのだろう。
吹き抜け全体は採光処理が施され、広い空間にほどよく陽光が差し込み、またテーブルやベンチが適度に配されているため、生徒、教師を問わず待ち合わせやたまり場として利用されている。読書にふける女生徒や定期的に腕時計をのぞく男子生徒、どこかの文系クラブが5〜6人でミーティングを開いているその奥、となりの校舎への入り口横に甲斐がいた。真上に渡り廊下があるため、常に陰を落としているその場所は広い玄関内では唯一死角になる。
その力は今では求められることなく、
ただ、過去を物語るだけ。
壁にもたれ、ぼぅっと鎧甲を見つめている。その瞳は少し悲しげだ。
ばたばたっと横の廊下から飛び出した女生徒が展示台の方へ駆けていく。
「ごめ〜ん、待った?掃除が長引いてしもて…!」
その後、時計を見ていた男子生徒と一言二言やりとりしたあと、けらけら笑いながら玄関へ向かっていった。
甲斐は一瞥すると再び鎧甲を見つめる。
オレもこいつと…
待ち合わせていた男子生徒の奥に、展示台の正面になるのか、髪の長い女生徒が展示柵に肘をついて、じっと鎧甲を見つめていた。少し悲しげな瞳で。