正面玄関展示台前 PM3:34
だれだろう?
視線に気づいて顔を上げてみる。
左。実習棟の方。通路横。
転校生かな?顔がよく見えない。
千鶴はしばらく自問してみるが、思い当たらない。よく見てみると転校生らしき彼は木刀を背負っている。そして自分の傍らには剣道具一式が頓挫している。
転校生 → クラブ探し → 剣道部入門
千鶴の脳裏にこの図式ができあがった。
とりあえず会釈してみる。
正面玄関西側通路 PM3:34
展示台の前の女生徒が顔を上げてどれくらいたったのか。数分か、一瞬か。
そのイメージは至極現実味を伴ったものだった。
草と土、そして雨のにおい。その強烈な印象に、甲斐はここがコンクリートに囲まれた校舎の中であることを忘れ、時の流れすら忘れるほどであった。
気がつけばその女生徒が笑顔で会釈している。
甲斐は歓喜に打ち震えた。
先の不思議な出来事を忘れるほどに。
久しく忘れていた感覚。教室であった4人組も与えてくれなかった感覚。
甲斐は壁から離れると、実習棟の通路へ向かった。ここを抜ければグラウンドの方へ行けたはずだ。
甲斐は反古しようとしていた約束を守ることにした。
正面玄関展示台前 PM3:35
ん、違ったかな?
…ま、
いっか。
千鶴は、なにかまとわりつくものを感じていたが今は忘れることにした、あの転校生とは再び出会う予感もしていた。
実習棟1階 PM3:37
商業科がある南清水高校には実習棟なるものが存在する。
簿記、商業史、情報処理などの科目があり、実習棟はそれらの科目に加えて事務・接客など通常の教室ではできない実習を行う。
階上の電算室やワープロ室の文系クラブの賑わいをよそに、ここ1階は静まり返っている。
甲斐は渡り廊下の先にある階段を無視し、大きめな白い実習机の並ぶ誰もいない教室を2つ通り過ぎ、もう1つの階段に向かった。
登り階段を無視し、脇の通路で立ち止まる。その奥は薄暗く、グラウンドへ続くドアから、か細い光が差し込んでいる。