その微力な抵抗を押し込めるがごとく、人影が1つまた1つと闇の中から現れる。
階上の賑わいが遠くに聞こえる。
甲斐は木刀を下ろしながらゆっくり顔を上げる。
「今日は気分がいい。」
相手は4人、否5人か。
甲斐は考えるのをやめた。この高揚を満たしてくれるのであれば、人数など問題ではなかった。
醜悪な嘲笑を携えながら言った。
「手加減はなしだからな!」
格技場 PM3:40
「めぇぇぇんっ!!」
叫声をひびかせながら、走り抜け、素早く振り返り残心を決める。
バスケット部がウォームアップに入るなか、男子剣道部はすでに互角試合を始めていた。
「加賀か、あいつは結構やるな」
胴の紐を結び直す手を止めて相方を見る。
「まあな、強引やけど、実戦むきではある」
それを待つもう一人の剣道着は正直な感想を漏らす。面を被っていて表情は伺えないが真面目に評価しているのだろう。
「ああ、おまえと一緒や」
糸目で万年笑顔な顔をさらにほころばせて、ぽつりともらす。
「やかましい、それよか胴直すのになんで座っとるねん」
立てた竹刀に小手、面と器用な三段重ねを作り上げてつっこみを入れる。
「うん、ちょい休憩。」
「部長がそれはないやろ」
「そう言いながらなんで座んねん」
部長と呼ばれた糸目の言葉を後目にその横にどかりとあぐらをかくと、相方はさっさと面を解き始めた。
「木場ぁ、柏木が来たら怒るぞ」
「せやな、まぁこれからやからなっ」
面を取ると木場は向こう側の様子を見て、汗にぬれた顔で大きく笑った。
男子部員の胴間声を挟んだ反対側では女子剣道部が道着に着替え、面を並べ始めていた。
「なんや、男子は気合いはいってるなぁ」
更衣室から出てきた梓がその胴間声を聞いて誰ともなしに感想をもらす。
「ちぃ〜っす☆柏木先輩〜」
ショートカットの2年生が挨拶する。
「ちぃ〜っす☆先輩〜」
同じ容貌の妹が同じように挨拶する。
「ちぃ〜っす☆」
「ちぃ〜っす☆」
気づいた1、2年生が次々挨拶を重ねる。
男子のそれを真似た挨拶が流行っているらしい。