しばらく妙な流行に苦笑していたが、ふと壁際に人影があるのに気づいた。
「ここはチンピラの集会場やないでっ」
「うるさい、黙って見てるだけやろ」
一角でだらりと横になっていた赤木が上体を起こしながら言い返す。
それを横目でジトっと見ながら梓がさらに言い返す。
「千鶴はまだ来えへんで」
「えっ、マジ?」
梓のほうが一枚上手である。
体育館職員控え室 PM3:40
「ま、茶でも飲んでけ」
控え室の冷蔵庫にはグラス入りの麦茶が常時数本貯蔵されている。体育会系クラブの生徒の中で密かな人気商品である。磨りガラス越しに琥珀色の液体が涼を呼ぶ。
あと、日程表な。と、夏期休暇中の部活のスケジュールが書き込まれたA4用紙が返された。他のクラブより若干密度が濃い。千鶴は顧問欄に「宮本」と押印されているのを確認すると、鞄にしまい込み、腰掛けているパイプ椅子の横にもたれさせる。
「あれ、松ヶ居センセは?」冷えた麦茶が火照りを冷ます。
「この時間だからな、体育館じゃねぇの?女子バレーも始まってるだろ」
「剣道部も始まってますよ」
苦笑いしながら言葉を返す。
「柏木副主将と相馬主将がいるから大丈夫だよ」
「副主将」を強調して返事すると宮本は、がははっと笑った。
180の長身に角刈り、ジャージに無地のTシャツ。細身であるが、適度に引き締まった身体は典型的な体育会系教師だ。
千鶴の正面に座ると自分の麦茶を一気に2/3飲み干す。
「ところで」すこし顔を引き締めると宮本は続けた。
「大谷大学受けるんだってな」
「はいっ」
あんまり勉強してなかったから、と言うと頭をコツコツしながら舌をだす。
「ま、大丈夫だって言ってたけどな」
「でも、スポーツ推薦ならまだあるぞ。龍谷や関学だって…」
「ダメですよ」
少し芝居がかった素振りでチッチッと一差し指を振る。
「私の剣道は勉強の道具じゃないですから!」
「…」
きょとんとしていた宮本の顔がほころぶ。
「そか」
と、和やかな雰囲気だった控室は一人の女生徒によってかき消された。
「せんせい!喧嘩ですっ!」
「何人だっ場所はっっ」そう言い放つと席を立ち、狭い室内をすり抜け入り口に移動する。
宮本の対応は早い。もめ事の仲裁は体育教師というのは決まり事なのか。