格技場 PM4:00
「よし、そろそろ本稽古といくかね」
タオルをバッグの上に落とすと、柏木梓は自分の面の前に座った。
剣道部の練習は、礼に始まり礼に終わる。胴着、袴を着用した部員は、面の準備を行う。基本的に面は地面につけてはならず、小手を下敷きにして準備する。並べた面の前に正座し、1分ほどの黙祷の後、礼を済ませて練習に入る。練習の終わりも同様な手順だ。
「千鶴先輩待たなくていいんですか?」
「いいんですか?」
面下と呼ばれる日本手拭いを頭に巻く手が止まる。
「あ、そか」
双子姉妹に問われて梓は間の抜けた返事をした。
夏休み中の予定表を渡しに行ったにしては遅すぎる。未だ叫声とどろく男子剣道部を見て梓は立ち上がった。
「ちょっと待ってて」
「笹川はいまいちだ。もうちょい気合いがたらん」
「おまえ、剣道を力だと思ってるやろ」
剣道部の練習メニューは顧問の宮本が一手に管理しており、体育教師としての知識プラス10年におよぶ剣道歴から効率的かつ効果的なプランが事前に組まれている。
そのため、主将の相馬と男子剣道部No2の木場が20分も剣道談義を展開していても、練習自体に影響がでることはない。
「力押しというのは基本として悪くはないけど、それだけってのは説得力ないなぁ」
「一点に特化してれば、だいたいの状況には対応できるんだよ」
部員評価や自分の剣道論をごちゃまぜに展開させながらも、正座を崩さないのは上級生としての自覚か、ただの剣道マニアなのか。
「とはいえ、今回はいけそうだな」
相馬が話題を変える。
「おぉ、ベスト8脱出か?!」
それに木場が応える。
「戯れ言だな」
以外な方向からの声に、二人とも同時に後ろを向いた。
相馬たちから斜め後の格技場入り口にその男は立っていた。
「府内5強に数えられると聞いて来てみれば」
詰め襟はここの制服ではない。ましてやこの時期には少し場違いな雰囲気すらある。さらにその奇異な雰囲気に拍車をかけているのが、右手に持った木刀である。
周囲を見回しながら独り言を言っていた詰め襟が相馬に目を合わす。
「なんだ大したものではないな」
嘲笑を携えた表情にある眼は、狩りに姿を表した獣のような異様な輝きを宿し、周囲に威圧感を広げていた。
絶句する相馬と木場。
その威圧感は相馬たちへ向かっていた梓の足を止め、稽古に一息ついた部員を振り向かせ、その部員を見